ゼニアの生地は、天然毛から作られています(一部シルク混のものもあります)。したがって、より上質な原毛を確保することは、ゼニアの品質を維持するためにも非常に重要な課題のひとつです。
そこでゼニアが行なっているのが「トロフィー制度」。毎年、優れた原毛を生産した生産者を選び、表彰する制度です。この制度を通じ、よりよい原毛を生産するモチベーションを高めているのです。
原毛の質を評価する上で最も重要視されるのは「繊維の細さ」です。しかし「繊維の細さ」ですべて決まるわけではありません。強さ、長さ、白さなど、その他の要素も合わせて考え、評価が下されます。
一例をあげましょう。ゼニアは、ウール、カシミア、モヘアなどを対象にしたトロフィー制度を複数創設しています。その中でも最も歴史があり、ゼニアのトロフィー制度を代表するものは、最も優れた羊毛を表彰する「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」です。
2013年の「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」で1位に選ばれた原毛の繊維は11.5ミクロン級でした。一般的なウールの衣料品に使用される原毛の太さは約25~30ミクロン、既製服のスーツに使用される原毛の繊維の太さは約20~23ミクロン、ゼニアの「トロフェオ」に使用されている原毛の繊維の太さは約16ミクロンです。この数字から、1位の原毛の繊細さが推測できるのではないでしょうか。
ところが、実は繊維の細さだけを見るのであれば、2位や3位に選ばれた原毛のほうがより細いものでした。強さや白さなどの要因も合わせて考えたところ、1位の原毛がより品質がよいと判断されたのです。
さて、「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」についてもう少し詳しく説明しましょう。
「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」の歴史は、1963年まで遡ることができます。創設当時に評価の対象となっていた原毛は、オーストラリア大陸の東南に位置するタスマニア島で生産されたもののみでした。
最初のトロフィーは、なぜオーストラリア全土ではなくタスマニア島限定の羊毛に与えられていたのでしょうか。
タスマニア島は北海道の8割程度の大きさの、起伏に富んだ自然豊かな地形の島。この環境は特に良質な羊毛が取れることで知られている「メリノ種」という羊の飼育に非常に適しています。タスマニア島で生産される羊毛は非常に細く、「エキストラファイン・ウール」と呼ばれる繊維の平均直径が17.5ミクロン以下。これは一般的なウール製品に使用される原毛の約三分の二程度の細さです。非常に柔らかい繊維で、なおかつ強いという特徴を持つ羊毛ですが、タスマニア産の羊毛は、オーストラリア全体のわずか3%程度を占めているのみ。つまり、タスマニア産の羊毛は、特に希少で上質なものなのです。
よりよい原毛を求めているゼニアがこの地でトロフィーを創設したのは、これが理由だと推測されます。
1980年、「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」の対象となる原毛はオーストラリア全土に拡大されます。おそらく、より広い地域からよりよい原毛とその生産者を集めたいと考えてのことでしょう。
オーストラリア全土からも良質な原毛を集めることができるようになった結果、出品される原毛の繊維はどんどん細くなっていきました。そこで2002年には、繊維の平均直径13.9ミクロン以下の羊毛を対象に「エルメネジルド ゼニア ヴェリュス・オウレウム トロフィー」(黄金の羊毛賞)が創設されました。この賞は、翌年に「エルメネジルド ゼニア ヴェリュス・オウレウム インターナショナル トロフィー」と名を改め、オーストラリアだけでなく、ニュージーランド産の羊毛も審査に参加できるようになりました。
つまり現在では、オーストラリア産の羊毛を対象にした「エルメネジルド ゼニア エキストラファイン ウール トロフィー」と、オーストラリア産とニュージーランド産で、なおかつ繊維の平均直径が13.9ミクロン以下の原毛を対象にした「エルメネジルド ゼニア ヴェリュス・オウレウム インターナショナル トロフィー」があるというわけです。
さて、ゼニアの生地に使われるのは、羊毛だけではありません。したがって、他の天然毛についても同様にトロフィー制度が創設されています。簡単に紹介しましょう。
エルメネジルド ゼニア カシミア トロフィー
「エルメネジルド ゼニア カシミア トロフィー」は、カシミア山羊の原毛を評価する賞です。
カシミア山羊は、チベットや中国内陸部、モンゴル、ネパールなどで飼育されている山羊。
これらの地域は冷え込みが激しいため、カシミア山羊には体の表面を覆う毛だけでなく、非常に柔らかい産毛がたくさん生えています。この産毛を大きな櫛ですき取って集めたものが「カシミア」です。
なかでも特に良質のカシミアを産出することで知られているのが、「中国・内モンゴル自治区」。
カシミアの原毛はその色によって、ホワイトカシミア、グレーカシミア、ライトブラウンカシミア、ブラウンカシミアの4種類に分類されます。この中でも最も上質なものとされるのが、染めやすく、発色がいいホワイトカシミアです。
中国・内モンゴル自治区では、このホワイトカシミアが主に生産されています。また、原毛の繊維の細さも12~14ミクロンと、他の地域の原毛に比べると細いことが特徴。
そこでゼニアは、このような優れたカシミアを産出する中国・内モンゴル自治区にて、ゼニアの「エルメネジルド ゼニア カシミア トロフィー」を開催。1985年と1986年の2回開催されましたが、その後は中断されています。その理由はゼニア公式サイトにも「政治的な理由」としか記されていませんが、おそらく中国の国内的な事情により中断されているのではないかと考えられます。
・エルメネジルド ゼニア モヘア トロフィー
モヘアとは、アンゴラ種の山羊の毛。中でも上質とされるのは、生後6ヶ月以内に最初に刈り取られた原毛から取れる「キッドモヘア」です。キッドモヘアの繊維直径は27~30ミクロン。滑らかで光沢があり、透明感のある白さが特徴です。また、繊維に弾力があり、織り上げるとさらっとしてシワになりにくい生地ができます。
特に南アフリカ産のキッドモヘアは、光沢感にすぐれ、汚れもつきにくく、質も均一。そこで、1970年にこの地で創設されたのが「エルメネジルド ゼニア モヘア トロフィー」。モヘアの原毛を評価するための賞です。
現在、トロフィー制度を設けて生産者のモチベーションをあげようとしているメーカーはゼニア以外にもあります。しかし、このようなトロフィー制度を創設したのは、ゼニアが最初でした。それだけ早くから、ゼニアはよりよい原毛を求め、生産者とよりよい関係を築こうとしていたことがわかります。
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